水環境中の
ウイルスとは

都市環境工学コース
片山 浩之 准教授

水環境中のウイルスとは

ウイルスは細胞の中で増殖するので、水環境中でウイルスが住みついているということはありません。しかし、たとえばヒトや動物の細胞内で複製されたウイルスが糞便とともに排出され、それが下水システムや排水路、地表を経て水環境に流れ着いてしまうことがあります。いろいろな種類のウイルスが存在していますが、ヒトが飲んだら感染してしまうようなウイルスがもっとも危険なので、そのような性質をもったウイルスを主な研究対象としています。

なぜ水中ウイルスを研究するのか

これまで、水の病原微生物については、大腸菌を病原細菌の指標とする考え方が一般的でした。大腸菌はそれ自体は病原性はないのですが、糞便の中に常在する細菌の中では水環境中でも生残しやすいなど、糞便の汚染指標として優れた性質を持っています。たしかに、19世紀に流行したコレラ菌などについては、大腸菌を指標とした水の安全対策が非常に良く機能し、安全な水供給のために重要な役割を果たしてきました。
このように、大腸菌は優れた細菌指標なのですが、すべての病原微生物リスクを代表できているわけではありません。病原微生物の中には、細菌だけでなく、原虫類やウイルスなどもあるわけですが、1990年代に原虫類を原因とした水道を介した大規模感染事例が発生しました。これは、大腸菌は塩素消毒で容易に死滅してしまうのに対し、塩素ではなかなか死なない原虫類は、安全対策の盲点になってしまっていた、ということを意味します。
原虫類に対しては、これまでにさまざまな対策が立てられ、浄水場などでも対応が進んでいます。一方、ウイルスについては、まだわからないことが多いため、十分な対策が立てられているとは言えず、研究の必要性が高まっています。

どのような研究を現在進めているのか

水中ウイルスの測定法を開発しています。ウイルス測定の最後のステップは医学や分子生物学の分野で開発された手法を援用すればよいのですが、水試料は生物試料に比べて極端にウイルス濃度が低いため、ウイルスを濃縮したり、精製したりする必要があります。
ウイルスを除去したり不活化したりするための水処理法の開発も行っています。ここでは、たとえば東京都の水道水600万m3/日といった大量の水を対象として考えており、安価な水処理法においてどれだけウイルスを除去することが可能であるか、などについて調べています。
これまでは大腸菌がいなければ安全、という論理で水の安全管理を行ってきたわけですが、現在では定量的にリスク管理する必要が認識されてきています。ウイルスについても同様であり、そのため、大腸菌に代わる新たなウイルス指標を開発しようとしています。たとえば、水道水を1000L調べるのか、水道原水を調べるのか、どの種類のウイルスを調べるのか、処理法の性能をどのように保証するのか、などなど、さまざまなアプローチがあります。水の安全性を高めるために、工学的にもっとも効果的な方法を追求しています。
また、東南アジア諸国(タイ、ベトナム、カンボジア)を中心に、途上国の水衛生に関する研究を進めています。現地の実情に即した衛生的な水の基盤設備をどのように整備していくのが良いのか、微生物というミクロな問題を水衛生基盤設備というマクロな工学的な解決に導くことを、一人ひとりの頭で考えながら研究を進めています。

どのような研究を現在進めているのか

今後の研究の展開

まずは、これまでの延長線上になりますが、「水中ウイルス測定法の開発」です。特に、水中の共存物質がウイルスと共に濃縮されて、ウイルス測定の最後のステップを阻害することがあります。この現象は、元の水試料の種類(水道水、河川水、海水、下水、下水処理水など)、対象とするウイルスの種類などによってさまざまですが、常に正確にウイルスを測定する技術の確立を目標にしています。
次に、ウイルス感染性の観点から水を造る技術を評価します。さまざまな消毒法、水処理法のウイルス除去能力、あるいはその性能が常に発揮されているか、などを調べます。特にノロウイルスは社会的にも影響の大きいウイルスで、学術的にも非常に興味深いウイルスなので、特に注目して研究しています。
また、水中病原微生物の安全性を確保するための新規ウイルス指標の開発や、糞便汚染源解析を試みています。また、鳥インフルエンザウイルスの調査なども手掛けようと考えています。

今後の研究の展開